I wish...       ― Telephone ―

 その間違い電話は偶然僕に繋がった。午前2時半、眠ったばかりだったので、しばらく鳴り止まないコールに少し苛立ちながらも受話器を取った。
「もしもし…」
『あ…、私、間違えたみたい。すみません、こんな時間に』
 まだ幼さの残る少女の声、こんな時間に。しかし、この感じは…。
「完全に間違いというわけではないようですよ」
 いつも、こんな感じで僕は突然聞こえない声を、見えない姿を捉えてしまう。そして今も…。この電話は彼女が僕を選択したから繋がったのだろう。
「お話を、伺わせてください」
 彼女の話は、そんなに長くはなかった。僕は内容を聞いた後すぐに、何軒かに電話をかけた。すべて済んだ頃にはもう明け方近くなっていた。眠い目を擦りつつ、今日に備えてベッドに潜り込むと、窓の外の闇の色は溶けかかっていた。

 数日後、何の気なしにつけたテレビには、最近では珍しくもなくなってしまった殺人事件のニュースが流れていた。ずっと見つからなかった遺体の頭部が見つかったらしい。被害者は15歳の少女、犯人は獄中で自殺を遂げたので、真相の一切が不明のままになっていたようだ。僕は淹れたての紅茶のカップを持ったまま、電話のほうに歩いていった。僕が受話器に手を触れるとちょうど呼び出し音が鳴る。
「はい」
『ありがとうございます』
「よかったね」
 もう一度お礼を言う声の後、受話器を取ったときのツーという音に戻っていた。僕は受話器を元に戻すと、テレビを消した。

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