何もこんなときに
思い出さなくたって…
引越しの準備をしていた。
もうゴミしか入っていないと
思っていた引き出しを、
逆さまにしたら転がり出てきた
水色のビー玉。
そのビー玉自体は、
去年の夏祭りで懐かしくて買った
ラムネのビンの中から取り出したものだ。
でも、思い出したのはもうかなり昔の話。
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小学校の樹がまだ大きく感じた頃。夏休みに学校の校庭で友達と遊んでいた。
今思えばなんて馬鹿なことを、と思うのだが、炎天下で少しばかりの小銭をポケットに入れただけで何時間も遊んでいた。
当然のどが渇いて水道の水だけはたくさん飲んだ。おなかの空いたのも忘れるほど遊んだ頃、友人の一人が突然倒れた。さっきまで元気に遊んでいたのに。
あわてた子供たちの耳になぜか突然飛び込んできたのは、前の通りの祭囃子だった。
そのときはどうしてそんなことを思いついたのかも分からない。
誰かが「何か買ってくる」と言って校庭を飛び出した。そして数分後戻ってきたときには、クラスの女の子と、手にはラムネのビン。
それを倒れたやつの口に流し込んだ。思うように流れてこない液体にイラつきながら。
幸いそいつは熱中症ではなくて、腹が減りすぎて目を回しただけで、突然の炭酸水に驚いて元気を取り戻したが、いつもは簡単に扱っていたラムネのビンのもどかしさと、心配そうにそいつを覗き込む女の子の顔がやけに印象的だった。
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僕はその子が
好きだったのかもしれない。
急にそんなことを思い出した。
心配そうな顔をされているやつに、
小さな嫉妬心を抱いていた。
淡い水色に、
そんな古いことを
思い出させられてしまった。
それでも捨てられずに
僕はそのビー玉をポケットに押し込んで
引越しの準備を続けた。
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